倉本部長、聞いてください!在庫問題の「矛盾」と「解決策」
- yoshikonakamura
- 11月14日
- 読了時間: 7分
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登場人物:
上司:倉本(くらもと)部長 - 豊富な経験を持つベテランマーケター。在庫管理のプロフェッショナル。
部下:棚田(たなだ)くん - 在庫問題に頭を悩ませる、熱意ある若手社員。
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プロローグ:棚田の悩みと倉本部長の提案
棚田くん: 倉本部長、お忙しいところ恐縮です。少しお時間いただけますでしょうか。
倉本部長: おう、棚田くん。どうした?随分と深刻な顔をしているが。
棚田くん: はい。実は、最近うちの在庫問題について、どうにも頭を悩ませていて…。現場からは「これ以上、商品置けません!」って悲鳴が上がる一方で、営業からは「お客様が欲しがっている商品がない!」ってクレームが来るんです。この「過剰在庫」と「品切れ」という、一見矛盾する問題が同時に起きている状況に、どうアプローチすればいいのか、途方に暮れていまして…。
倉本部長: なるほどな。まさに、多くの企業が直面する「在庫のジレンマ」だな。実は、今日の話はそんな棚田くんの悩みにぴったりの事例があるんだ。ポルトガルの大手スポーツブランド、Sport Zone(スポーツゾーン)の話なんだが、聞いてくれるか?
棚田くん: はい、ぜひお願いします!
Sport Zoneが直面した「在庫」の深淵
倉本部長: Sport Zoneはポルトガルを代表するスポーツブランドで、国内だけでなくスペインにも約130店舗を展開し、市場をリードしている企業なんだ。そんな成功を収めている企業でさえ、かつてはうちと同じような、いや、もっと深刻な在庫問題を抱えていたんだよ。
棚田くん: え、あの規模の会社でもですか?それは意外です。でも、どうしてそんな矛盾した状況が生まれるんでしょう?店舗がパンクしているのに、お客様が欲しいものがないなんて…。
倉本部長: まったくその通りだ。彼らもまさにその状況に苦しんでいた。根本原因は、当時の在庫管理プロセスが極めて分散的で非効率的だったことにある。本社から商品を発送しても、中央倉庫ではすぐに在庫が枯渇してしまい、各店舗からは「本社はわかってない」と、信頼が得られない状態だったそうだ。広大な店舗網を持つ彼らにとって、この問題への対応は、日々の手作業と膨大なリソースを要し、商品の適切な配分ができていないことを自覚しながらも、改善の糸口を見つけられずにいたんだ。
棚田くん: うわあ、それはまさにうちが抱えている状況に似ています…。手作業での調整に追われて、本質的な改善に手が回らない悪循環ですね。
「制約の理論(TOC)」との出会い:問題の「核」を炙り出す
倉本部長: その通りだ。Sport Zoneも、店舗への供給方法を根本的に見直す必要に迫られたんだ。そこで彼らが協業したのが、ゴールドラット・コンサルティングだ。彼らは「制約の理論(TOC)」という考え方に基づいて、問題の根本原因、つまり解決すべき「核となる対立」を探ることにしたんだ。
棚田くん: 「核となる対立」ですか?それは具体的にどんなものだったんでしょう?
倉本部長: Sport Zoneが見出した対立は、「より多く売るためにはもっと在庫が必要だと信じる一方、良い買い物体験のためには店舗に過剰な在庫がありすぎることも知っている」という点にあった。この矛盾を解消するために、彼らはまず「出荷の深さ」、つまり各店舗に各商品をどのくらいの量で持つべきかを管理するためのパイロットプロジェクトを開始したんだ。15,000種類ものSKU(最小在庫管理単位)を130店舗で手動管理することは不可能だから、このプロセスは自動化される必要があった、と彼らは語っている。
棚田くん: なるほど、それが「核となる対立」ですか。まさに、うちも同じような板挟み状態です。それを自動化で解決しようとしたのですね。
Onebeat 導入の成功:パイロットから全店舗展開へ
倉本部長: そうだ。彼らは5店舗で1シーズンにわたるパイロットを実施し、「Symphony」システムを導入した。このシステムは、各店舗のリアルタイムな需要を毎日監視し、それに対応する仕組みだったんだ。
棚田くん: 結果はどうだったんですか?
倉本部長: パイロットで得られた成果が非常に良好だったため、彼らはSymphonyをポルトガル本土、スペイン、ポルトガルの島々、カナリア諸島を含む全130店舗、全商品へと拡大展開する決断を下した。Symphonyの導入により、在庫供給プロセスは自動化され、生産性が大幅に向上したそうだ。そして、「Sport Zoneに商品があるならば、それは適切に配分され、正しい場所にある」という状況を保証できるようになった、と彼らは話している。これが最初のステップ、「深さの管理」だった。その後も、店舗ごとのカテゴリーにおける「品揃えの多様性」の配分を管理する必要があることに気づき、さらに改善を進めたんだ。
棚田くん: パイロットから全店舗展開まで、すごい規模ですね…!自動化によって、これまで属人的で非効率だった部分が劇的に改善されたわけですね。
劇的な成果:在庫削減、売上増、そしてチームの変化
倉本部長: まさにその通りだ。この変革は、Sport Zoneに目覚ましい成果をもたらした。まず、供給フローが機敏になることで、コレクション全体、特に季節の移行期においても、在庫レベルをより安定して維持できるようになったんだ。結果として、中央倉庫に在庫があるアイテムの品切れレベルを50%以上削減することに成功したそうだよ。
棚田くん: 50%以上もですか!それは驚異的な数字ですね!品切れが減れば、当然売上にも直結しますよね。
倉本部長: その通りだ。品切れ率の大幅な減少は、当然ながら追加の売上を意味する。彼らの店舗は、お客様が自分で商品を見つけてレジで支払うセルフサービスモデルだから、これは直接的な売上増につながったんだ。コレクション終了時の売れ残りも減少し、収益性も向上したそうだよ。
棚田くん: 売上も上がり、顧客体験も向上したと。まさに理想的な結果ですね。組織内部にはどんな変化があったんですか?
倉本部長: それも大きなポイントだ。かつて20人で構成されていた中央チームは8人となり、解放された人員は組織内の他の重要な業務に再配置されたそうだ。これにより、手作業によるプロセスが大幅に削減され、より効率的で店舗の現実に即した品揃え管理が可能になったんだ。さらに、欠品または欠品寸前の緊急度の高い商品は24時間以内に、それ以外の通常商品は48時間以内に店舗に配送される体制が整った。これにより、顧客と店舗が必要とするものに焦点を当てた、より迅速で機敏なサービスが提供できるようになったんだ。そして、何よりも大きかったのは、新しいモデルに対する店舗からの信頼が格段に向上したことだ。
棚田くん: チームの効率化も進み、配送も早くなったと。まさに組織全体が変わったんですね。単なるシステム導入以上の、深い変化があったように感じます。
企業文化に根付いた「集中」と「継続的改善」の哲学
倉本部長: その通り、棚田くん。TOCは、単なる在庫管理システム以上のものを彼らに教えてくれたんだ。それは、問題分析とアプローチの新しい方法、そして「本質的で重要なこと」に焦点を当てる能力だ。価値を高めるための制約を攻撃し、本当に取り組むべき一点を見極めること。そして、価値の低いものや、同時に進行させていた多数のプロジェクトを二次的なものとし、本当に失敗が許されない4つか5つのプロジェクトに集中すること。これがTOCから得た教訓の一つだ、と彼らは語っている。
棚田くん: 「集中」…確かに、あれもこれもと手を出して、結局どれも中途半端になりがちですよね。優先順位を見極める力が重要だと。
倉本部長: まさにそれだ。この「集中」の概念は、日々の運用、チーム管理、店舗への出荷、供給管理といったあらゆる面に浸透していったそうだ。そして今日、TOCと継続的改善の哲学は、Sport Zoneの企業文化に深く根付き、もはや切り離せないものとなっている、と彼らは断言している。
棚田くん: なるほど…。Sport Zoneの事例は、単に在庫管理システムを導入したという話ではなく、問題の根本を見極め、優先順位をつけ、組織全体で効率化と集中を進めていくことの重要性を教えてくれますね。これはうちの会社にも、そして僕自身の仕事にも、大いに通じる話です。過剰在庫と品切れのジレンマは、まさに「焦点が定まっていない」証拠なのかもしれません。
倉本部長: そうだ。棚田くんの言う通り、問題の本質を見極め、そこに「集中」して取り組むことが、どんな課題解決においても鍵になる。Sport Zoneの事例は、まさにその成功例だ。我々も彼らのように、課題の核を見つけ出し、大胆な改革に挑戦していくべきだな。
棚田くん: はい!倉本部長、今日の話、本当に勉強になりました。僕もこのSport Zoneの事例から多くを学び、うちの在庫問題解決に向けて、もう一度「集中」して取り組んでみます!
倉本部長: よし、頑張るぞ!
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