top of page

アパレル業界の未来を読み解く:激動の時代を乗り越える経営戦略

第一部:アパレル業界の未来戦略:トランプ関税と中国市場の真実

 *本コラムは、2025年6月19日に実施した「儲けを創る事例満載!アパレル経営セミナー」の内容を抜粋したものです。


司会: 本日は、アパレル業界の未来について深く掘り下げていきたいと思います。特に、地政学的な動向、中でも「トランプ関税」が業界に与える影響について、専門家である河合さんにお話を伺います。河合さん、よろしくお願いいたします。

 

河合: よろしくお願いします。

 

司会: まず、多くの企業が懸念しているトランプ関税についてですが、アパレル製品への影響はどの程度だとお考えでしょうか?

 

河合: 新聞報道などでは、トランプ関税の今後について様々な憶測が飛び交っていますが、実際にはトランプ氏と中国との間で既に話が進んでおり、当初言われていたような145%という信じられないような高関税ではなく、中国に対しては25%に落ち着く方向だと見ています。

 

司会: 25%ですか。他の国々への影響はどうでしょう?

 

河合: トランプ関税の主なターゲットは明らかに中国です。その他の国々については、単純に関税をかけすぎると、現在アメリカで進行中のインフレをさらに加速させてしまいます。そうなると、アメリカ国民が結果的に製品価格の上昇分を負担することになるため、そこまで大きな影響はないだろうと考えています。また、アパレル製品の製造業がアメリカに戻ってくることは考えにくいので、そこまで心配する必要はないというのが私の見解です。

 

司会: アパレル製品の製造は、やはり人件費の安い国々で行われることが多いですものね。

 

河合: その通りです。アパレル製品は、発展途上国の熟練した手作業で作られるのが一般的で、先進国のほとんどが輸入関税をかけています。例えば、日本でも元々8%から10%程度の関税がかかっていました。中国の繊維製品は質が高く、スピードも早いです。一方で、バングラデシュなどで生産する場合、初回取引は断られることが多く、ロットも大きく、リードタイムが半年から1年にも及ぶため、追加生産が非常に難しいという現状があります。これはまさに「丁半博打」のようなものなのです。

 

司会: では、アメリカは中国からの輸入を完全にシャットダウンすることはできない、ということでしょうか?

 

河合: 人間が必ず着るものである以上、完全にシャットダウンすることはありえません。現在、中国からアメリカへの繊維製品の輸出は40%ほど減少していますが、中国なしではアメリカの人口をカバーできるほどの繊維製品を供給することは不可能です。手作業で製品を作る産業がアメリカに戻ってくることも考えにくく、ニューヨークで高級品が一部作られているとしても、一般のアメリカ人が着る服までカバーできるとは思えません。何らかの妥協点が見出されるでしょう。

 

司会: 最近、SheinやAliExpressのような中国発の激安ECサイトが人気ですが、これらへの関税の影響はどうでしょう?

 

河合: SheinやAliExpressのような中国の「激安系」アプリは、小型の小包で、請求書の合計額が1万円以下のものが中国からアメリカへ個別に自宅配送されていますが、おそらくこれらにも関税がかかってくると思われます。ただし、アパレル製品の関税は完成品の輸入価格、つまり仕入れ価格にかかるもので、販売価格ではありません。仕入れ価格の25%が関税としてかかったとしても、最終的な市場価格への影響は約2〜3%の値上げ程度に収まります。

 

司会: その程度の値上げであれば、企業としては吸収可能なのでしょうか?

 

河合: はい。というか、これまでの30年の歴史の中で為替だけでも40%程度変わっており、その都度我々は創意工夫をすることで対応してきました。2〜3%程度の原価上昇であれば、値引きや余剰在庫の削減管理をしっかりコントロールすることで十分に吸収できる範囲だと考えています。例えば、ユニクロさんも実際に販管費を2〜3%増やして対応しています。そもそもSheinやAliExpressは非常に安価なので、そこまで大きな影響はないだろうと思います。

 

司会: トランプ関税がアパレル業界全体に与える影響は、思ったよりも限定的だということですね。では、日本国内のアパレル市場についてはいかがでしょう?

 

河合: 日本市場は、それ以上に高齢化が進んでいます。平均年齢が50代近くになっており、あと10年もすれば日本人全員が定年という時代が来るかもしれない。そうなると、おしゃれな服が売れるという気があまりしないというのが正直なところです。

 

 

司会: 中国市場についてもう少し詳しく伺えますか?経済状況や消費者の動向は?

 

河合: 中国経済は現在、非常に厳しい状況にあります。若年層の失業率も20〜30%と高く、中国人の購買行動も変化しています。かつてのような「爆買い」は減り、不要なものは買わない、装飾的なものよりもベーシックなものを好むなど、非常に「知的購買」が進んでいます。ユニクロや無印良品のようなテイストが選ばれる傾向にありますね。

 

 

司会:ファストファッションは今後どうなっていくのでしょうか?

 

河合:インフレと不況の中で、若者の服の買い方は二極化しており、ベーシックなものは長く着る、装飾的なものはSheinなどで安く買う、という消費行動が増えています。無駄なものを買わないという傾向も強まっていますね。

 

司会: 河合さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。トランプ関税だけでなく、中国市場やアパレル業界全体の深い洞察を伺うことができ、大変勉強になりました。

 

河合: ありがとうございました。


ゲスト河合拓(かわいたく)


Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture strategy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院。



著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言。


連載:河合拓のアパレル改造論(ダイヤモンド・チェーンストアOnline)

最新記事

すべて表示
Onebeat社の概要

Onebeatは、短期的な予測を用いて顧客の行動をリアルタイムの日々の行動に変換し、セルスルーと全体的な売上を最大化するAI主導の小売技術を開発しました。 AIアルゴリズムにより、最初の商品配分から補充、清算に至るまで、小売プロセス全体を最適化します。...

 
 
 

Comments


Commenting on this post isn't available anymore. Contact the site owner for more info.
bottom of page